そして徐々に目撃される場所を限定していき、やがては覇王自らが出向くように仕向ける。
その時こそ、美香と耕太がコルニア城へ侵入する絶好の機会だ。同時に、引き付け役のミルバは、覇王と正面から対決することになる……。
ミルバは高くあごを上げ、日の沈んだ濃紺の空を見つめた。
覚悟など、必要さえなかった。
宵闇の中、ハントは頭痛を堪えていた。
監査員の元へ計画の定期報告へ赴こうと、一つ離れた灰色の建物に向かって歩いている途中だった。
中庭を数歩進んだところで突然激しい目眩に襲われ、ハントはがくりと膝をついた。
痛い。
ぎゅうぎゅうと締め付けられるような猛烈な脳の痛みに、目の前がちかちかし、ハントは低く呻いた。
まただ。以前にも何回かこうなったことがある。最近は一向に現れることもなかったのに……。
(幻影を、見たからだ。)
顔を覆う指の隙間から、草の生い茂る地面を、汗の浮いた顔で睨みつける。
『お兄さんは夢を見ていたんだよ。』
監査員の少年の言葉が耳の裏に蘇り、ハントは一掴みの草を拳の中に握り潰した。
――そうだ、夢だ。
ミルバは死んだのだ。正確には殺された。
それなのに。
(それなのに、どうして俺は、ミルバ様が『まだ生きてる』などと思い込もうとしている…!?)
わからない。
なぜそんなことを思ってしまうのか。
そしてそれを思うたびに、黒くべったりとした恐怖が胸の内を這い上がり、容赦なく脳内を支配してしまうのだ。
それは獣じみたハントだからこそわかる、生存本能的恐怖だった。
美香は昼間からラディスパークの大通りを歩いていた。
もちろん姿を変えた状態で、である。
耕太に「練習」と称して大人の女の姿に変えてもらい、宛てもなく広大な都市をさ迷っていた。
美香は今、大きめのフードで色の濃い顔を隠し、頬にはバラの入れ墨、さらにフードの隙間から長いピンク色の髪がわずかにこぼれている。
『できるだけ奇抜な方がばれねえだろ?』
というのが耕太の主張らしい。
確かに、通りを埋める想像物たちは、皆変わった容姿をしている。人間でないものが半数を占めているほどだ。それもある意味では、“真セカイ”に住む光の子供たちの発想が豊かな証拠だった。木を隠すなら森の中よろしく、できるだけ派手に個性を持っていた方がばれる可能性は低くなるのだ。