『ごめん…ちょっと私帰る。』
アキはみんなに謝って、そそくさと帰っていった。
カズヒロは唇を噛み締めた。
果たして、アキに分かってもらえたのだろうか。
翌日から、アキは学校を休むようになった。
「アキ…!学校だよ!」
聞こえるはずはないが、カズヒロは毎日、迎えにいった。
だが、ドアをたたく手も、日に日に弱くなっていった。
カズヒロはため息をついた。
俺は何もできずに終わってしまうのか…。
まさか…最悪の事態が起きてしまうのか…。
カズヒロは、心配でならなかった。
その不安は、思いもよらぬ形で、カズヒロにやってきた。
アキは、ただ家に引きこもっているだけではなかった。
叔母のアツコと、一枚の紙をじっと見ていた。
それは、ろう学校の入学届。
「カズヒロくんや、サユちゃん達に、申し訳なくない?アキ…今まで行きたがっていなかったから。」
『私ね…初めて思った。あの学校に行きたくないって…。』
アキの衝撃的な一言に、
「え?」
驚きを隠せなかったアツコ。
「どうして?」
『カズヒロ達が、一生懸命私を守ってくれていることは、私にもはっきりわかる。でも、…でもね、いじめの方が…大きくなっちゃったの。』
「いじめ…られる方が、つらくなったの?」
アキはコクリと頷いた。
「本当に、ろう学校に入るの?」
『もう決めたから。』
これで、決まった。
アキは、来年4月から、東京のろう学校に通うことになった。
学校に行って、転校すると伝え、入学届を出す日々は、風のように過ぎていった。