「……これ」
それだけ言って綾川くんは何も言わない。
彼はしゃがんだままメモ紙を握って黙ってしまった。
怒ってしまったのかもしれない。
私は自分がついてしまった嘘をすごく後悔し、しゃがんだまま目を閉じた。
どれくらい沈黙していたのか分からない。
先に口を開いたのは綾川くんだった。
「…槇原さん。クラブとか行ったことある?」
怒ってるか分からない口調だ。
私はビクッとしながら、正直に頷いた。
「そっか。」
綾川くんは散らばった残りのペンを手早く集めペンケースにしまってくれた。
ゆっくり立ち上がると何事もなかったように帰る支度を再開した。
どうしよう、どうしよう
私は答えも出ないのに念仏のように「どうしよう」を頭の中で唱えていた。
綾川くんがDJのミツルだってこと知ってるよ、って今このタイミングで言うべき?
その前に騙してごめんって謝るべき?
頭はグチャグチャだ。
「…じゃ、俺さきに帰るね。」
何も聞かないまま綾川くんは教室を出ていった。
教室に取り残された私。
ボーっとする頭で必死に考える。
「…クラブのこと聞かれたってことは、…私がユキだって確かめたの?」