「本当にごめんなさい!」
私はもう一度謝った。
綾川くんがこちらに向かって歩いてくる。
「槇原さん?俺…別に怒ってないよ?」
私は綾川くんの表情を確かめようとするけど、眼鏡をかけてて分からない。
「へ?」
間の抜けた声が出た。
「俺、ユキさんは槇原さんじゃないかなって思ってた。でも、俺普段はこんなダサい格好だから、『DJのミツルは俺だ』とか言っても信じてもらえないんじゃないかとか、むしろ引かれるかもとか、いろいろ考えた。」
私は驚き、目を見開く。
「…あ、槇原さん、バス?電車?」
「え……っと、バス」
綾川くんが歩きだした。
私はその少し後ろを歩く。
一度靴箱で離れると、先に靴に履き替えた綾川くんが先の方で待っている。
私が小走りで歩み寄ると、「じゃ行こっか」とまた一緒に歩きだした。
「さっきの話の続きだけど…、槇原さんが途中から俺のことミツルだって気づいてるのも分かってたよ。」
私は思わず隣の綾川くんを見上げる。
綾川くんは前を向いたまま少し笑った。
「だって普段はこっち見もしないのに、いきなり観察されるようになったから。プリントもらうときとか、腕時計ガン見されたし…」