「ハハッ、いきなり何?」
ミツルが私を見て笑った。
目尻が少し下がり、口の端が片方だけ上がる。
『私はこの笑顔が好きだ』
そのとき、はっきり私の心はそう言った。
私はますます恥ずかしくなり、持っていた眼鏡を慌ててミツルの顔にかける。
もとの綾川くんに戻った。
でも私の心臓の早さはもとに戻らない。
「…っ、びっくりした。」
と綾川くんは眼鏡を耳にかけなおしている。
「あは、ごめん!」
再び歩きだす私たち。
なぜか沈黙が続く中、すぐにバス停に着いた。
「………あのさ」
沈黙を破ったのは綾川くんだった。
「俺がDJしてること、…誰にも言わないでほしい。先生にバレたらヤバいから。」
「分かった。言わない。」
私は端から誰にも言うつもりはなかった。最初から私だけの秘密にしておくつもりだった。
ちょうどバスがこちらに向かってきた。
「じゃ、また明日。」
「うん。」
私はバスに乗り込み、後ろの席から外の綾川くんを見下ろす。
すると綾川くんはわざと眼鏡を外し、ニカッと笑って、手を振ってくれた。
バスが発車する。
私はしばらく一人赤面しながらバスに揺られた。