高校に入学した今年の春…。わたし達が知り合ってからまだ半年しか経ってないことがわたしには信じられなかった。
コイツとはもっと前から、ずっとずっと昔から一緒にいた気がする。コイツがいなかった世界を生きてきたことが信じられなかった。
「ねぇ、海行った?」「行ってないよ。」
━━ちょっとした沈黙もコイツが一緒だと何故か心地いい。「行く?」「うん!」
━━付き合いだしたのは、5月の始めだった。偶然同じ係りになって。なんとなく話すようになって。流れで付き合って。ちゃんとした告白はなかった。
いつも嫌な授業が始まると二人で授業をサボって、この景色が見えるこの場所に、コイツの左隣に座る。わたしのベストポジションだ。
「ねぇ、4時間目なんだっけ?」「たぶん…日本史?かな。お前出る?」「うん、一応ね。日本史終ればお弁当だもん。」「単純。」
家に違和感を感じ始めたのは高校に入ると同時ぐらいだった。両親のケンカと、父親との間の溝。家族に遠慮している自分がなんとなく惨めに感じて、家ではできるだけ居場所を作らない様に努力した。父親とは自然と話さなくなって、目を合わすことも関わることも避けてきた。寂しくなって何度も独りで泣いたりしたけど、バカバカしくて泣くのはやめた。それに今はコイツの隣にいれるから寂しくないし。
「そろそろ行く?」
━━この言葉に体は自然と反応する。
「そうだね。雨降りそうだし。」「…てか、雨降りそうなのに海行くの?」「いいじゃん。楽しそう。」「カゼ引くよ。」
わたしの席は窓側の一番後ろ。わたしの斜め右にコイツが座ってる。つまんない授業もコイツを観察してるとちょっと笑えてくる。例えば……先生が話し出すと外を見る横顔とか、筆入れを膝の上に置くクセとか。筆入れを膝の上に置くとちょっと内股になったりして笑っちゃう。
━━色のない教室もコイツが居ると、わたしには輝いて見えた。