―――病院
翼「いやー死ぬかと思った」
ベッドに仰向けに寝たまま、翼がやけにでかい声で言った。その言葉にベッドの脇で彼の衣類をたたんでいた美弥はため息をついた
翼「悪いな、心配かけて。でも誰も見舞いに来んなんて」
美「…うちが来なくていいって言ったの。あんま大人数で来られても迷惑やし、あんたのその姿見たら波音なんか泣いちゃうんじゃないかと思って」
まっすぐ仰向けになって怪我のせいで1mmも動けない翼には、包帯を巻かれた爪先しか見えなかった。
翼「俺の怪我、そんなひどいん?首も動かんから、自分が今どんな状態なんか全く見えんわ」
美「うん…まあ…生きてるから大丈夫やろ」
美弥は翼に目をあわさない
翼「…」
美「…お父さん、家に帰して良かったん?」
翼「うん。彰もおるわけやし、仕事もあるし…お前はここに居てくれるんやろ?…なら、それで俺は充分」
美「…でも、うちもいつまでも東京にはおらへんよ」
翼「…」
翼の目は窓の外に向けられていた
翼「…やっぱ俺も…大阪戻ろっかな…」
“まだ上京したばっかやん”
そう言いかけて口を閉じた
美弥は何も言わず、ただ右腕を眺める目がぼんやり霞んでいくのを感じた