美香はそのことに関しては、ミルバを恨んでいた。子供のわがままではあったが、いっそ舞子の計画のことなど教えてくれなければよかったのに、と思ってしまったのだ。
舞子を憎まないと決めたのに、その覚悟が確かにあったはずなのに……。
(どう説得するか、なんて……わかるわけないじゃない。)
城の攻略方法については、まだ曖昧ではあるが、少しずつ考えを詰めてきている。しかし舞子と再びあいまみえるところを想像すると、それだけで美香は暗澹とした気分に陥った。犠牲にした力のせいで、想像ははっきりとは像を結ばなかったが、それでも、どうしてもうまく舞子を説得できている自分の姿を思い浮かべることができなかった。あまりに思い詰めた時など、本気で気分が悪くなり、トイレに駆け込んでしまったこともある。
――だからこそ、なのかもしれない。
魂の分け身は、ただ“子供のセカイ”へ憧れて漂い出した、心の一部から作られている。それは美香が平素から守ろうとしていた「純粋無垢な舞子」像に相違なく、だから余計に、例え虚像だとしてもその像を守りたくて、こうして必死になって舞子の魂の分け身を探しているのかもしれない。
そんなことをつらつらと言い訳のように考えながら角を曲がると、人混みがいっそうざわざわと騒々しくなった。
美香は前方からやって来る行列の存在に気づき、驚いて思わず足を止めた。
そして次の瞬間には、さっと身を翻し、できるだけ詰まった人混みの中へと身体をねじこんだ。怪訝な目で見られたり、肘で脇腹を押されたりしたが、構わず美香は満員の人混みの中でじっと息を潜めていた。
大通りの真ん中を、人混みを割いて堂々とやって来る者たちは、明らかにその辺にいる光の子供の想像物とは異なっていたからだ。
二列になって軽やかな足取りでやって来るのは、美しい少女たちの一行だった。波打つブロンドの髪、エメラルドグリーンに輝く瞳。なめらかな肌はよく日に焼けており、白いひらひらのワンピースがよく似合っている。頭には花の冠を頂き、手には篭を持って、華やかな笑顔と共に篭の中身の色とりどりの花びらをすくっては、空に投げ上げていた。
少女たちはが前を通ると、脇に追いやられた通行人たちはひそひそと言葉を交わした。
「何の行列?」
「さあ?何にせよ、強いオーラを発してるから、また舞子様が新しく考えた連中じゃないかねぇ……。」