オバケと話すようになってから1ヶ月が経った。僕らはいつもの居酒屋以外では会わなかったし、彼はいつも日本酒と焼き魚しかたのまなかった。
「なんでオバケなんだ?」僕は聞いてみた。
店の中には僕と、オバケと、居酒屋のオヤジしかいなかった。だいたいいつもそうだ。いつ潰れてもおかしくない。
手書きのメニュー。時代遅れの音楽。茶色くなった壁。僕ら以外に誰が好んで、こんな薄汚れた、ちっぽけな居酒屋に来よう。
それに立地条件だって良いとは言えない。大通りに面しているわけでもないし、駅からも遠い。
なんで僕は毎日こんな居酒屋に足を運ぶんだろう。
駅前の、こ洒落たバーで横文字のよくわからない酒でも飲んでいればいいのに。
「それはな」オバケが言った。「つまり誰も俺の事なんて見ちゃいないからさ。それに、様々な形で俺が恐怖を振り撒いてるからさ。そんなわけで誰かが俺をオバケと呼んだ。誰が呼んだかなんて忘れたがね」
遠いところでパトカーのサイレンが鳴っていた。強盗?万引き?それとも殺人?僕にはわからなかった。