ベースボール・ラプソディ No.55

水無月密 2011-01-19投稿
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 橘華高校野球部の二回戦、浦賀工業との試合は初戦と同じ蒼天の下でおこなわれた。
 ただその観客席は初戦と違い、多くの観客を集める試合となっていた。


 浦賀工業の監督である森本はスコアボードを見つめ、その表情をくもらせていた。
 自軍に列んだ零の数は八つ。
 そして今、最後の零が点灯しようとしていた。

 浦賀の敗因は、八雲の存在を軽視したことにあった。
 鈴宮工業戦の偵察報告をうけた森本は、攻守の要はそれぞれに哲哉と大澤が担っていると判断し、この二人だけを警戒した作戦で試合に臨んでいた。

 八雲についても報告はうけてはいたが、投手として球は速いが変化球はなく、打撃においてはヒットエンドランでホームランを打つ破天荒さだけしかつたえられなかった。

 結果として森本は、百四十キロ台後半の速球には留意したものの、中学時代に何の実績もない八雲をただ球が速いだけの投手だと判断し、特に警戒はしなかった。


 だが、一度試合が始まると、八雲への評価は一変した。
 球速こそ報告通りであったが、それを四隅にきっちりと投げ分けられては、高校生が簡単に打てるレベルではない。
 しかもそれは、真芯でとらえなければ打球が前にとばぬほどに重いのである。


 そもそも投手の基本能力を測るなら、球速・球威・制球力の三点からおこなうべきであり、その全てにおいて八雲がトップレベルである事を、偵察した者はつたえるべきであった。

 結果、浦賀の攻撃構想は崩壊し、九回二死までにはなった安打は単発二本と完全に押さえ込まれる結果となってしまった。


 守備面においても誤算は八雲であった。
 大澤だけに焦点をあわせた浦賀は、一打席目こそまともに勝負したものの、そこで外野フェンス直撃の長打をあび、以後の勝負を全て敬遠するという非常の策にうってでた。

 これに憤慨した八雲がその全てに安打し、この試合の全得点となる三打点をあげていた。


 そして、最後の打者を八雲が三振にしとめ、試合終了のサイレンが球場に鳴り響く。





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