クジラが空中を泳いでいる。
あの腹部の白い斑点は、あれは何という名前だっただろう。
そうだ、動物学者を呼ばなければ。
「動物学者は昨日死に絶えました」
脇に控えた秘書が硬質な声で告げる。
なんたることだ。
こんな素晴らしい現象が起こっているというのに、分析する人物は誰もいないのか。
憤慨した僕は鼻の穴からコポコポと水泡を吹き出す。
「観客がおります。彼らが分析をします」
僕は海藻のような髪をたゆたせて、光の降る方を見上げる。
ガラスの檻に囲われている。
――ここは、水槽の中だ。
「では今日のご予定ですが」
秘書はそう言ってふやけたスケジュール帳を開いた。