聖人の事、入学当初からライバル視してて、
聖人と、もう何度もトラブってるヤツ。
聖人は、全然相手にしていなかったんだケドね。
『あ?』
タツヤとは、数々の伝説を作ってしまった事実があるから、
聖人は、鋭い目つきでソイツをにらみつけたんだ。
『1位取れてよかったよな。
それと、さっき、ステージに向かって叫んだの、俺だから。』
そう言い終えると、
タツヤは照れ臭くなったのか、
あたしとユカには目も向けずに行ってしまった。
聖人も、その後ろ姿を、クールな眼差しで見ていた。
そして、
あたし達3人が、言葉を発する事もなく、あぜんとしているところへ現れたのが、
担任の渋川だった。
おそらく渋川は、
今のタツヤとのやり取りを近くで見ていて、
タツヤが、この場を立ち去ったのを確認してから、
あたし達に近付いて来たのだと思った。
渋川は、近付いて来るなり、
聖人の方を向き、こう言ったんだ。
『北岡。
お前達の合唱は素晴らしかったぞ。
私は、お前の事を誤解していたと言いたいところだが、
そうではなかったという事に、今気付いた。
私は、お前の事を理解しようとしていなかった。
すまなかった。』
渋川の言葉に、
あたし達3人は、
顔を見合わせて、
お互いに、自分の耳を疑ったケド、
渋川の表情は真剣だったから、
その言葉に嘘はないって思ったんだ。
『いいよ、センセ。
大人にも事情ってもんがあンだろ?!』
聖人が、
笑顔で渋川にそう言ったトキ、
渋川は、
右手を差し出し、
握手を求めた。
そして、
聖人も、
その手に自分の手を重ねた――
あのトキ、
渋川の目から涙が流れていたのは、
合唱コンクールで1位を取れたから?!
それとも、
聖人と和解出来たから?!
きっと、
両方なんだろうね――