ユキエは、来客の対応をするべく小走りに玄関先へ向かったが、
すぐに、俺とユウの座る居間のソファーの前に戻って来た。
『あなた。ユウの隣のクラスの担任の渋川先生が見えたわよ。
私達に話したい事があるんですって。』
『渋川先生?!なんで隣のクラスの先生が?!
まぁいい。上がって頂きなさい。』
俺は、ユキエにそう伝えると、ユウにもこの場にいる様命じた。
『どうも。突然お邪魔してすみません。すぐに帰りますので、どうぞお構いなく。』
腰の低そうな、その教師を部屋へ迎え入れ、俺達三人は、テーブルを挟んで向かい合う形で椅子に腰を掛けた。
渋川は、ユウの隣のクラスの担任だと言うが、ユウの担任の本橋と比べると若干若く見えた。
『実は今日、偶然に体育館横の用具置場から出て来るユウ君とすれ違いましてね、
顔に怪我をしていた様なので心配になりまして。
隣のクラスの山田 ユウ君だとすぐに分かり、声を掛けたら走って行ってしまったので、
御自宅の場所を調べ、伺わせて頂きました。』
自分の担当しているクラスの生徒ではないというのに、この渋川という教師は何故、家にまでやって来たのだろう。
例え、この渋川が教育熱心な教師だとしても、怪我をした生徒とすれ違ったという理由だけで、わざわざ自宅まで調べてやって来るとは今時珍しい。
もしかして、こんな事を考える俺の方がおかしいのか。
いや、そんな筈はない。
きっと、隣に座るユキエとユウも、俺と同じ事を思っている筈だ。
もしかしたら、本橋に何か言われて来たんじゃないだろうな。
ならば先にこちらの方から聞いてやろうではないか。
俺は、渋川をまっすぐ見据え、単刀直入に言った。