『渋川先生。私達夫婦は先日、ユウの担任の本橋先生と話し合いましたが、
決して、今世間で騒がれているモンスターペアレンツではありませんから。』
俺の言葉に渋川は、一瞬目を丸くして、じっと俺の顔を見たかと思うと、突然笑い出した。
『山田さん。私は決して、そんな事など思ってもいませんし、今日お伺い致しましたのは他でもない理由があるからです。』
さっきから、ユウは大人しく渋川の話を聞いている。
ユキエと目を合わせながら、俺は、とりあえず、渋川のその続きの話を聞く事にした。
『山田さん。明日、私は校長に今日の事を話します。
そして、教師のいない場所で暴力的なイジメが行われない様、校内、外でのパトロールの強化を考えてもらいます。
更に、深刻なイジメ問題に真剣に取り組み、教育とはどうあるべきか、今後の課題として、職員会議でも取り上げてもらう様、お願いして来ます。』
驚いた。この渋川という教師は、ユウの担任でもなく、教頭でも校長でもない。
ただの一教師ではないか。
自分の立場が悪くなる事さえ考えられるのに、何故こうして俺達親子に関わろとするのか。
事なかれ主義の教師が多い中、この教師だけが違うとでもいうのか。
『渋川先生、ありがとうございます。
正直申しますと、私達夫婦も本橋先生を訪ね、ユウのクラスメイト達の前で、あの様な発言をした事により、今の状況が改善されるという自信などあまりなくて、
ユウの前でこんな事を言うのは悪いとは思うのですが、はっきり言ってしまえば、賭けの様な物でした。
私達夫婦も、今後この問題をどうしてゆけば良いのかと考えている最中でおりました。
しかし今、渋川先生がその様なお考えを示してくださる事で、私達も、ここにいるユウ本人も、とても心強く、安心致しました。本当に感謝しております。』
丁重に挨拶をする俺 に、渋川は恐縮していた。
『言いそびれましたが、他でもない理由とは、私自身の戒めの意味もあるという事です。』
帰り際、渋川は玄関のドアに手を掛けながら、呟く様に言った。
『戒め……ですか?』
意味が分からない俺達に、渋川は更に言葉を続けた。