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渋川が提唱するイジメ対策案を受け、
学校側が慎重に配慮してくれた結果、
ユウへのイジメは明らかに消沈傾向にあった。
その間、俺達夫婦も幾度となく学校へ足を運んだ。
本人いわく、陰口や中傷の言葉を度々耳にする事はあるらしいが、
秋場や金田から金をせびられたり、暴行を加えられたりする事は、全く無くなったという。
学校側の配慮だけで、イジメ問題がここまで改善されるとは思ってもいなかった俺に、
その理由が明らかにされたのは、
ある日の夕方、ユウを迎えに訪れた、学校からの帰り道での事。
ユウと一緒に家路に向かう途中、
一人の少年に出会ったからであった。
『山田。』
中学生らしからぬ渋めの低い声。
俺達親子の前に立ちはだかる様に、不意に目の前に現れたその少年の身長は、
俺とユウの頭一つ分ほど飛び抜けており、髪は明るく染め上げ、耳にピアスを幾つもしていた。
『あ…北岡君。あの…いつも助けてくれてありがとう……。』
しどろもどろに話すユウの口調と、その少年のいでたちから、
この少年が、ユウとは異人種であり、生徒同士の間では、かなりの権力者である事が伺えた。
『何かあったら、すぐ俺ントコ来いよ。』
すれ違い様に響いた、少し低めのその声には、暖かささえ感じた。
『は…はいっっ!! ありがとうございます!!』
少年に礼を言うユウに聞けば、
その少年は、ユウのクラスの隣の、渋川先生のクラスなのだという。
『俺達と同じ学年という事になっているけど、本当は俺達より2コ上なんだ。
事情があって2年遅れて入学したって話だよ。』
『そうか。見た目はかなり悪そうだな。
ハハハ。でも、お前の事を守ってくれてるなんて、いい人なんだろ?
父さんにはそう見えたけど?』
『うん。今時珍しく硬派な人でさ。
男の俺から見てもカッコイイって思う人だよ。』
『ほおぅ。じゃあまるで父さんみたいだな?』
『あ?何言ってんのオヤジ。全然ちがうし。』
『おっ!!言ったなこのっっ!!』