「ここって、す〜んごい忙しいんだねェ… あたし、リョージの事見直しちゃった」
「ヒナもーっ! 諒司さんって、さすがマネージャーって感じ?」
「いや、本当に大変なのは厨房の人達なんだ。
あ!チョーさん、水島さん、お疲れさまでーす!」
頭を下げた俺に、笑顔で手を振ってくる厨房スタッフ達。
「あ、ヒナここで降りまーす、コーちゃんが迎えに来てくれるみたいですから♪」
「じゃ、気をつけて」
「康介さんにヨロシク〜」
手を振って車を離れた小坂雛の姿が、ミラーの中でみるみる小さくなっていく。
「リョージ、…あのさぁ、今夜泊まってもいい?…」
俺(倉沢諒司)をチロッと見上げる様に、小声でささやいてきた品川恵利花。
「門限はいいのか?」
「うん、大丈夫…」
ちょっぴり照れくさそうに言うエリカを連れて、俺は自宅の借家に戻った。
安くて広いだけが取り柄みたいなボロ家だが、アパートと違って隣に気兼ねする事も少なく、気楽なものだ。
互いをいつくしむ様に優しく愛し合った後、俺たちは安らかな眠りに入っていった。
「あれ?… もう朝かよ」
俺は、部屋の中に満ちていた白い光のせいで、目覚めたようだ。
《ありがとう、この子を助けに来てくれて…》
「ん?エリカ何か言ったか」
声をかけた相手は、目を閉じたまま穏やかな寝息を立てている。
(じゃ、誰が?……)
寝呆けた頭に、再び先程の声が響いてきた。
耳で聞き取っていた訳ではなかったのだ。
《あたしは、…フローリアと申します。
あなた方の言う女神って事になるかしら?》
「えぇーっ?め、女神さまってかい!」
俺は、少女の姿になりつつあった白い光に向かい、調子っ外れな声をぶつけていた。
最近、常識外の出来事に縁のある俺は、じきに落ち着きを取り戻すと、女神フローリアの話に耳を傾けていった。
……耳で聴いてないだろ!のツッコミは無しだ。