ジーナは会って早々噛み付いたが、すぐに重要なことを思い出した。そうだ、そういえばハントに確認したいことがあったのだ。
ジーナは素早く辺りを見回した。――ツイている。石廊は雨音を反響しているだけで、辺りに人の気配はなかった。半径五メートル以内に誰もいないことは確実だろう。
ハントはジーナの暴言に怒るでもなく、そのまま素通りしようとしたが、ジーナはその筋肉質な腕をがしりと掴んで引き留めた。ハントは迷惑そうにジーナを見上げた。
「何か用かよ。」
「ああ。お前に聞きたいことがある。」
なんだ、手短に言え、と吐き捨てたハントは、本当に面倒くさそうだった。
ラドラスに統治権を取られてふて腐れているのかと思えば、そうでもない。しかしまた、自暴自棄になっているわけでもなさそうだった。
ジーナの目には、ハントはただ「諦めている」ように見えた。
それを悟った途端、ジーナの中で得体の知れない感情が湧き上がり、気づいたらハントを殴っていた。
ラドラスを殴り損ねていた分が溜まっていたせいか、思った以上に手応えのある一撃だった。ハントは何も構えていなかったらしく、見事に吹き飛ばされ、背中を石壁に打ち付けた。
それでも、受け身は取ったらしい。ハントは「痛ってえ…」と呟きながら、わずかな血さえ出ていない口端を触った。左の頬が少し赤くなっているくらいで、ほとんど効いていないようだ。改めて治安部隊の若者の頑強さを思い知り、ジーナは呆れて溜め息をついた。
「痛くないだろう、お前。」
「あ?あー、まあな。……痛くなかったわ。」
ハントは何かがツボにはまったらしく、不意に声を押し殺して笑い出した。その笑顔が妙に幼かったために、珍しくジーナもつい頬を緩めた。
「目が覚めたか。」
「……それで殴ったのか。俺が寝てるように見えたか?」
ハントは石の床に座り込んだまま、皮肉っぽく笑って言った。瞳が少しだけ、いつもの鋭さを取り戻していた。ジーナは躊躇なく「ああ」と答え、同時に胸を撫で下ろしていた。
治安部隊を味方につけるなら、そのリーダーであるハントが腑抜けていては話にならない。あと三、四日でトンネルが開通するというこの状況下で、寝ぼけたような面を下げて歩いているハントが気に食わなかったのだと、今ようやくジーナは気づいた。