鬼と人間には禁忌がある。
鬼は人間と恋に落ちてはいけない。
人間は鬼と恋に落ちてはいけない。
これが鬼と人間の禁忌。
破った者達には裁きがくだされる。
けれど、その禁忌を破った者達がいた。それは…
人間の当主と鬼の当主だった。
二人はある森で出会い恋に落ちた。
許されないとわかっていた。
しかし二人はそれでも片割れが愛しくては仕方がなかった。二人は密かに会い想いを膨らませていた。
けれど開きかけた蕾は咲かなかった。
二人の関係が明らかになってしまったから
『鬼の当主の樹里子はどこだ!』
『人間の当主の京介はどこだ!』
二人は間もなく捕まった。
けれど、二人の瞳は真っ直ぐ前を見ていた。
死する最期の時まで……。
そして死する最期の時まで何故にあんな瞳をしていたのか。鬼と人間は不思議に思った。
けれど二人が死んだ今それが分かる者など居なかった。
しかし、真実を知る者はこの世に存在した。
それは…
鬼の能力を持ち、人間として隠れながら生きていた、二人が最も愛し密かに育てた…
二人の娘。
名は…桜美(おうみ)、という強く美しい娘だった…―。