チンゲンサイ。<57>

麻呂 2011-02-13投稿
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* * * * * *

職安通いの日々が着々と過ぎて行き、


また、新たなる季節が早々と訪れようとしていたある日の午後、


俺は、いつもの様に公園のベンチに座り、一袋50円のパンの耳をかじりながら、


求人情報誌をぼんやりと眺めていた。


今日のパンの耳は格別に美味かった。


何故なら、ユキエが油で揚げ、砂糖を塗してくれたからだ。


何の変哲もないパンの耳だが、


一手間掛けると、こんなに美味いのか。


心地好い風に吹かれながら、


たかがパンの耳に小さな感動を覚えた俺は、不意に人の気配を感じた。


『あぁ、やっぱり山田だ!!』


顔を上げて見ると、そこに立つのは鈴木だった。


そう言えば数ヶ月前、本屋で偶然再会して以来、まだ一度も連絡を取っていなかった。


『おぅ、鈴木か。なかなか身辺が落ち着く暇が無くてな。』


『山田、お前懐かしい物食ってんな。』


鈴木はいきなり、俺の手に持つパンの耳の入った袋に手を伸ばし、


それをサクサク食べだしたかと思うと、前置き無しにこう切り出した。


『この前の話だが、考えといてくれたか?』


いきなり振られても一体何の話だとなる所だが、


実は俺も、案外この話に関しては、満更でもなかったのだ。


しかし、鈴木が本気で言ってくれたのかどうかさえも確かめる余裕も無く、


自身の就職活動や、ユウのイジメ問題に、日々労力を費やしていたから、


今まさにこの場面が、鈴木の話に真剣に取り組める意思を伝える瞬間となった。


『鈴木。俺にぜひやらせてくれないか。
詳しく話を聞かせてくれ。』


『おぉ!!やってくれるか!!

お前の事を前もって社長に話してあるから話が早い。

明日、その旨伝えておくよ。

前にも言ったが、我社は新規事業を開拓しようとしている。

大手出版社と提携して、携帯小説サイトを立ち上げるのだ。

そのプログラミングをお前にお願いしたい。

しかも入社後は重要ポストを約束すると社長はおっしゃっている。』


『鈴木。俺がコンピュータのプログラミングに携わっていたと言うのは、もう随分昔の話だ。

正直言って自身もない。

しかし、本格的知識も持たない俺にとっては二度と無いチャンスだ。

この有り難い話を持って来てくれたお前には感謝するよ。』



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