今日もまた嘘をついて出掛ける。
「行ってらっしゃい。」玄関先で小さな手を振る娘に少し後ろめたさを感じながら、それでも早足で歩く自分がいる。
3ヶ月もすると、そろそろ買う物がなくなってきた。 彼女のいる店は、洋服や雑貨、日常の小物など色んな物が並べられているが、さすがに男が可愛いらしい小物や雑貨を買うことも出来ず、だんだん店に入りづらくなってきてしまった。
開放的な店の陳列棚越しに中を覗く… 今日はいないのかな?
あまりに早く帰るわけにもいかずに向かいの喫茶店に入ると、彼女は静かに本を読みながらコーヒーを飲んでいた。
「休憩ですか?」
自分でも信じられないくらいに自然に声をかけていた。
少し驚いたように僕の方を見上げ、その後少しはにかんだ顔で彼女は、「良かった。今日も会えましたね。」と笑った。
彼女を好きになるのに、それ以上の時間は必要じゃなかった。
「可愛い娘さんですね。奥さんも優しそうだし。」
男の身勝手さを見透かされたように、一番触れて欲しくない話題だった。
「でも私、吉澤さんのこと好きですよ。」
どうして僕の名前を知っているのか、その時は考える余裕もないくらい、飲みかけのコーヒーをこぼしてしまいそうな一言だった。