医師に死を宣告されてからニ週間が経った。学校にも友達にも何も言わぬままコウは人生最後の夏休みを迎えることになった。
『件名:non title
本文:コウ、羽山達と花火見に行く計画経ててるから、お前も行こーぜ!』
『件名:Re
本文:そうだな、詳しいこと決まったらまた教えてくれ。』
メールを打ち終わって、新品の携帯を閉じる。…どうせ死ぬなら、携帯むりやり買い替えなくても良かったかな。前の方が明らかに使い勝手が良かった。今の携帯は文字を打つ速度と表示される速度が比例してない気がする。
充電器に携帯を差し込んでコウはベッドに転がった。
…花火か。いつ以来行ってなかったっけ。別れた彼女には毎回、人混みが嫌だからと言って断ってきたな。
…そうだ、あれは確か十年前。
浴衣を着てはしゃぐ妹…肩車してくれた父…手を繋いでくれた母…。
花火が始まって、気付けば妹の姿が見当たらなくて。
探しに行くと言った父に何故か俺はこう言った。
「行かないで、死ぬよ。」
父は俺の頭を叩いてこう言った。
「大丈夫、すぐ戻るよ。」
二人は仲良く帰ってきた。
「ただいま」の言葉は無かったけど。
上空の突風に吹かれた花火の火の粉が運悪く二人を直撃した、と聞いた。
目撃者はいなかったけど、花火会場からだいぶ離れた空き地で大火傷を負った二人の死体が発見されたからだ。
しかし疑問が残る。何故二人はそんな場所にいたのか?妹に、浴衣に下駄であんな場所まで歩いていく体力はあったのか?父も何故そこに妹がいると分かったのか?それに、あの時本当に上空で突風は吹いていたのか?
そして何故俺はあの時、あんなことを言ったんだ?
ただの不安から?それとも……
『そうだ、君は知っていた。』
「え?」
この時、コウはドアの前に“何か”がいるのを見た。
次の瞬間、激しい頭痛と呼吸困難がコウを襲う。
あまりの苦しみに身体中が痙攣し、脂汗が流れ落ち、視覚も聴覚も失われていった。
喉からは乾いたような音がするばかりで助けを求めることもできない。
今のは、一体……?
“何か”の正体も分からぬまま、
コウは死んだ。