――病室
美弥が出て行った後も病室の中は静かで昨日と何も変わらない。ただ一つ、あの鶴だけ美弥によって綺麗に飾られていた
その中で翼はただ窓の外を見つめていた
夢なんか見なかったら
――俺はぁ!音楽で生きていきたい!――
音楽さえなければ
――音楽が好きで楽器もこのバンドもメンバーもぜーんぶ大好きや――
全部なかったら、俺は…
「ああぁぁあ!!!」
机の上の食器を勢いよくはらいのける左腕。そして音をたてて床に落ちる食器
――いつだったか、母さんは父さんのギターに惚れたって聞いた
――強がんなって。うちにはわかるねんから――
――元気ないなあ!自信なくなっちゃった?――
父さんが聴かせたギター
俺も聴かせたい人がいるんだよ
――今こうやって一緒に居れる時間もいつかなくなるんかなあ――
――うちは、何のためにいるの?――
まだ聴かせれてないねん
なのに……もう…
その時、あの鶴が静かに音をたてて落ちた
――翼、元気出して――
「あぁぁ…うわぁぁぁあああ!!!!!」
その時薄い扉を挟んだ向こう側で彼女がその声を聞いていたのも知らないまま翼は泣いた