「ピピピッ、ピピピッ…」
携帯のアラームが鳴る。
彼女はまだ僕の腕の中で静かな寝息をたてている。昨夜は自分の事をたくさん話してくれた。家族の事、友達の事、「亮くんに私の事いっぱい知って欲しいから!!ずっとずっと前から私と一緒にいる気持ちになって欲しいから!!」と。慣れないお酒に酔った事と話し疲れたんだろう。
彼女が起きない内に、ベッドから出てそっとメールを打つ。
「おはよう。昨夜は飲み過ぎて、気がついたら布団の中だった。愛美は幼稚園休みだからまだ寝てるよね? お土産楽しみにね!!」
後ろめたい気持ちを抑え込んで、携帯の音量をサイレントにした。
もう一度ベッドに潜り込むと、彼女は既に起きていた。
おはようのキスは彼女からだった。
ラウンジで軽い朝食を済ませて、部屋に戻ってチェックアウトの仕度をする二人。
「このままずっと時間が止まればいいのに…」
彼女が小さな消えそうな声で発した言葉は、確かにそう聞こえた気がした。
車に乗り込むと、「嵐山に行きたい」と彼女が言った。 あまりに突然言い出したから、「何か思い出でもあるのかな…」とも思ったが、「よし、今日は優子の行きたい所に行こう!!」と車を走らせた。
昨日は話す事に夢中で気付かなかったが、カーステレオからは久保田利伸が流れている。
優子のお気に入りらしい。
会話が途切れた時、車の中に『Missing』が流れた。
…言葉に出来るなら少しはマシさ 互いの胸の中は手にとれるほどなのに 震える瞳が語りかけてた 出会いがもっと早ければと…
優子の瞳から一筋の涙が零れた。