「ただいま」
「パパおかえり〜」
玄関を入ると愛美が抱き着いてきた。
一晩居なかっただけで、すごく淋しかったらしい。
愛美はパパっ子だ。
どこに行くのも一緒、お風呂も「パパと入る」と言う。
朝起きると僕と同じように眠そうな目を擦り、僕と同じようにボサボサの頭を掻いて、僕と同じようにテレビの占いを気にする。
「愛ちゃんはホントにパパのコピーだね」
と、妻にいつも笑われる。
ふっと優子の顔が頭をよぎった。
嵐山を二人で歩いていた時、小さな子を連れた若い夫婦を見た彼女の顔は、すごく羨ましそうな表情だった。
彼女は普段は平日が休みなので、会えるのはお互いの仕事が終わってから、週に2、3度せいぜい1時間くらい車の中で話をするだけだ。
それでも彼女は決して我が儘は言わない。
「会えない分、会った時の嬉しさが何倍も膨らむよ」と笑う。
今日は彼女と会えない日だった。
「今夜は愛ちゃんの好きなハンバーグだけど、相変わらずパパが帰るまで食べずに待ってるんだって」妻からのメールを確認してバスを降りて間もなく家に着く頃、知らない番号から携帯が鳴った。
「間違いかな?」そう思い電話に出ると、
「もしもし、私、中村と言いますが…」
優子の同僚でもあり友人でもある中村美樹からだった。