身仕度をする彼女の肩が、微かに震えていた。
いつも彼女を降ろす場所。
「やっぱり、こんな関係ダメだよね… もう会わないでおこう。 亮くんと色んな思い出できたし。 今の気持ちを汚さない内に諦めをつけたいよ。」
優子の言葉に、何も言えない自分が悔しかった。
「何言ってんだバカヤロー!!って、ずっと俺が守ってやる!!って、ホントは言って欲しかった…」
そう言うと優子の顔は、みるみるグチャグチャになって僕の胸で泣き崩れた。
ひとしきり泣いた後、彼女は出会った時のような笑顔で、
「もう電話してこなくていいから。メルアドも変えるね。 ありがとう…」
そう言って車を降りると、一度も振り返ることもなくあの角を曲がって行った。
家に帰ると、妻は娘を寝かせつけたまま一緒に寝てしまったようで、愛美の小さなベッドの横で座ったままでいた。
シャワーを浴び妻を優しく起こして、何もなかったように「ただいま」のキスをした。
愛美も小学生になり、彼女と別れてから一年が過ぎた。
彼女の親友の美樹と仕事の帰りにバッタリ会った。
「優子、元気にやってるよ。 学生時代の友達に、今度男の子紹介してもらうみたいだし。」
そんな話を聞かされた。
忘れようと、毎日浮かぶ彼女の笑顔を消そうと、そう思って毎日を過ごしていた。
今日は車で出勤の日。
車のドアを開けようとノブに手を差し込んだ時、何かが指に当たった。
小さく折り畳んだ紙に、
一言『会いたい…』
紛れも無く彼女の字だった。