会社をクビになった彼は途方に暮れ、とある公園に来た。近くにあったベンチに、まるで崩れ落ちるように腰かける。
「これから、どうすりゃいいんだ……」
彼は頭を抱えて、深く溜め息をついた。
「どうかしましたか?」
突然声をかけられて驚きつつも、顔をあげた。
そこにはボロボロの服を着て、砂まみれの汚れた顔をした、いかにもホームレスといった風貌の中年の男が立っていた。
うっとうしい。俺の気も知らないくせに。
「隣、よろしいですか?」
イライラしながら、
「勝手にしろ」
とぶっきらぼうに答える。
ホームレスが隣に座ると、臭いが鼻についた。思わず、袖で鼻を押さえる。しかし、そんなことはお構い無しにホームレスは話し始めた。
「ここには、神様が住んでいて、願いの叶う公園と呼ばれています。ここで神様と会い、願いを伝えると、その願いが叶う……と」
「馬鹿馬鹿しい」
そんなことがあるわけない。
「おや、あなたは信じないのですか?」
「じゃあ、あんたは信じてんのかよ」
「もちろん。だからここにいるんです」
「でも、あんたのその様子じゃあ叶ったようには見えないけどな」
「夢を持つのが悪いことだとは思いませんがね。あなたにも、願い事が一つくらいあるでしょう?」
「ああ、会社に復帰したいっていう、立派な願いがね」
「信じるものは救われる……ですよ」
「そんなバカなことしてる暇あったら、仕事探してた方がいいね」
「夢のない方だ。そんなんだから、クビになったんじゃないですか?」
何だと? バカにするのもいい加減にしろ!
「ふざけんな!! お前に何がわかる! もういい、お前なんかと話してた俺がバカだった」
彼は激昂して足早に立ち去った。
一人残されたホームレスは、その背中を見ていたが、足元から音楽が聞こえてきて、そっちを向いた。
鞄が置いてあった。彼が忘れていったのだろう。音楽はそこから聞こえてくる。
ホームレスは鞄を開け、ケータイを取りだし電話に出た。
「ヒロタさん。さっきはすいませんでした。まさか、本当にクビになるなんて……。今、本当のこと部長に言ってきました。早く戻ってきてください。……ヒロタさん?」
「だから信じた方がいいって言ったのに……」
ホームレスは不適な笑みを浮かべて、電話を切った。