初めて訪れる町っていうのは、どうも俺を悲しい気持ちにさせる。どういった理由でその町に行ったかなんて関係なくね。
オバケはそう言った。
初めてそう思ったのは小学1年生の夏だった。俺たち家族は親父の仕事の関係で、よくわからない小さな島に引っ越した。小学生になって、友達もでき始めてたのにね。その島で俺はすぐにガキ大将になった。喧嘩じゃ誰にも負けたことはないよ。未だにね。
そういってオバケは日本酒を少し飲み、焼き魚を少しほじくった。
でもね、小学1年生の俺が喧嘩に明け暮れちまったのは、その島の町せいなんだ。新しい場所はいつも俺を悲しくさせる。だから毎日喧嘩した。なぜ?なぜ悲しくなると喧嘩するのか?そんなの知らんね。うまく理由を説明できない事なんて世界中に山ほどある。そうだろ?
僕はその通りだと思った。それのおかげで世界が成り立っていると言ったって嘘じゃない。それが真実かどうかは別の問題だけど。
「そろそろ帰るよ」オバケはそう言うと、オヤジに金を払って店から出ていった。
「おやすみ」オバケが出ていった後、僕はビールジョッキに向かってそう言った。