【桜花〜Act.6-1 庄司卓也】

? 2011-03-21投稿
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「ウサさんはいま,仕事何してるの?」
「先月末まで看護師をしていました」
「そうなんだー。ここにもお医者さんよく来るよー。」
そう聞いてドキっとした。
その先を知りたかったが"触れるな危険"と脳裏を掠めた。
「いまは仕事…って言っても朝から晩まで実家の茶業所を手伝ってるだけなんだけど」
私の実家は茶業所を営んでいる。
従業員は近所の方々10名程と弟の樹だから気心も知れている。
5年前のちょうどこの頃,私の母親は初期の乳癌で手術を受けていた。今も定期的な検診を受けながら,家事を切り盛りしている母親を助けようと,子育ての合間をぬって従姉妹たちも手伝ってくれている。
このまま家業を手伝い続けても報いれたかもしれないが,母親の「人に尽くす仕事を頑張って」という言葉を承けて,就活を再開したのだ。
「ふーん」
興味なさそうに大将は返事をし,テーブルの客が頼んだ寿司の盛り合わせをカウンターに置いた。
カラカラカラ。
「おっ」
暖簾を潜るなり,カウンターに置かれた寿司に目を奪われる客,見覚えがあった。
「タクちゃん遅い!」
「ごめんねー,客の掃けた頃に来ようと思ってたさ。じゃなきゃ幸太も可哀相だろ?」
「海老食べたいなー」
何食わぬ顔をして私は庄司の言い訳を無視した。
「タクさんは?何飲む?」
「俺,また"あれ"でいいや」
ドカっと庄司が私の右隣に座る。
「俺おとといも来たんだよねー,今日で飲み干しちゃうよ」
「…は?馬鹿じゃねぇの。本当に今日覚えてたの?」
「覚えてた覚えてたって!」
庄司が態と大きな声を出してみせる。
「そういや連絡先も知らなかったな」
「多分自己紹介もしてないよ」
「赤外線できるか?」
「ちょっと待って…」
カラカラカラ。
カツーンとピンヒールの音が響いた。
「今晩は〜,大将〜」ほろ酔い加減で,常連客と思われるキャリアウーマンが入って来た。
庄司は目をくれる様子もなく赤外線通信に夢中だ。私は横目に気にしながら,庄司の手元に視線を落とした。
「…あれ〜」
キャリアウーマンはどうやら私と向かい合って,自分に背を向けている庄司に聞かせるかのように言っている。
「庄司君だ〜,シカト〜?ミナミだよ〜」
ハァと大きな溜め息をついて,庄司が振り返った。
「東條…お前いい年して,少し考えろ」
「自分こそ〜…それ,よく現場に連れて来てた…"娘"?」
私は目を見開いた。

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