【桜花〜Act.6-2 庄司卓也】

? 2011-03-21投稿
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「東條…」
庄司は私の方を見ないまま,低い声を出した。
自称?通称?ミナミ−本名東條早保は庄司と大将の同級生だそう。
ミナミさんが来てからの庄司は明らかに機嫌が悪かった。
「…間がわりぃ」
庄司がボソッと私の耳元で呟くと,賺さずミナミさんがツッコミを入れた。
「あれ〜?このふたりデキてんの〜?」
「東條は旦那とどうなんだよ」
「あたし〜?あたし"も"離婚しちゃおうと思ったんだけど〜,止められた。 」
ミナミさんと庄司の会話からは,私の知らない"庄司卓也の現形"が垣間見えた。
考えてみたら,私と庄司はお互いの現形を知らぬまま,ここに至っているのだから不思議だ。でもそれが,庄司にも私にとっても,心地良かったのかもしれない。
「タクちゃん食べよ」
「…ああ,そうだな!」
庄司の機嫌を損ねまいと,会話を遮って庄司に箸を持つよう促した。
「これ食ったら"トシオ"の店に行ってみるよ」
「ああ,トシ君ともご無沙汰してるのか,行って来いよ。」
「ほれ,早く食え」
「あわ…」
庄司は無理矢理私の口に寿司を入れた。
「お前も店閉めてから来いよ」
庄司は寿司を頬張りながら大将に話し掛けた。
「ああ,仕込み次第だから,また連絡する」庄司に突っ込まれた寿司に手間どっていると,庄司の肩越しにミナミさんと目が合った。
「…一緒に行くの〜?」
「うん,ミナミちゃんまたね」
ミナミさんは私から目を逸らさないまま,庄司に話し掛けた。
「…この子,"リサちゃん"とそんな年変わらないんじゃない?」
私の視界の片側で,庄司がこちらを向いたのがわかった。
「かもな」
庄司に視線を合わせる。
「ウサ…お前,いくつ?」
「27」
「"リサ"より6才年上だな」
ミナミさんがフッと笑った。
「この子底知れないわね〜口では笑ってる風だけど目は全然笑わない」
「そうかなー?」
私は声だけおどけてみせた。
−ダカラナニ?−
「私は今ここに居る"タクちゃん"しか知らないから」
私は笑いながら言い返した。
ミナミさんが庄司に好意を寄せているとは思えないが,庄司と私の間を妬んでいたのは間違いない。
無礼講とは言え,計算高いものを感じた。 ミナミさんはフンとかわいく拗ねてみせると,こちらに笑い掛けて来た。
庄司の背中越しに私たちは笑い合った。
その傍らで,両手でグラスを握り締めたまま,小さく微笑んでいた庄司を,私は知らない。

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