【桜花〜Act.7-2 ホワイトムスク】

? 2011-03-21投稿
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私の脳裏で卑屈な声が聞こえた。庄司はあの屈託ない笑顔で見つめて来る。
「だから,絶対に本気で笑わせてやるから!お前の前を通り過ぎてった野郎も知らない。ひょっとしたら元旦那もな」
庄司はククっと笑ってグラスを揺らした。
「…知らないと思うよー。…わかっちゃったでしょ?私,別れる前から他の男の人とも関係を持ってたの…。」
和人と別居し始めた11月末から,私は夜な夜な桐谷先生のスナックで飲み明かしていた。桐谷先生の制止を振り切って,他の客と朝まで飲み歩いたこともあった。
「そういう時も必要だけど」と叱り切れない桐谷先生の思い遣りに甘えていた。
他人のベッドで朝を迎えた時は流石に罪悪感で落ち込んだ。
それでも狂ったように飲み続け,客の家に連れ込まれてゆく私を,見かねた桐谷先生が客の家まで乗り込んで来て「この子に手ぇ出すんじゃねぇよ」とキレたのを見て,私もやっと目が覚めた。そんな私を「寂しかったら依子の部屋に来なさい」と許してくれる桐谷先生がいたから,今の私がいる。
「桐谷先生がいてくれて良かった」
庄司が心底ホッとしたという顔を見せた。どうやら私は独り言のように"心の声"を音声にしてしまっていたらしい。
しかし,何故私は出会って間もない赤の他人に身の上話をしていて,何故この人は出会って間もない赤の他人の身の上話に心底ホッとしているのだろう。
私の話はここまでにして,庄司の話に移った。
庄司には5年前別れた妻と,来年21才になる娘が居て,今でも週に1回は家族で外食をしているそうだ。
月に4回は沖縄の現場に足を運んでいるため,外食できない時は免税店でブランド物の土産を買ってチャラにしてもらっているらしい。
今回のハワイは自身のバカンスだったそうだ。
出会ってから75時間32分15秒の私たちは,確かに今を"必然だ"と感じ合い,話し合った。
ただお互いに"何故なのか"を問われたら答えられなかっただろう。
「私こういう出会い方多いんだよね,お互いの名前も知らないのに意気投合しちゃったり」
「俺はウサが初めてだよ」
庄司は急に真面目な顔になった。
「俺,今まで縁とかタイミングとかそういうの感じたことなかったから,ただ自分の中で"人生リセットして新しい自分でやり直そう"って思ってハワイから帰って来た時に,ウサと出会ったんだな。本当にウサは俺の背中からひょこっと顔を出したんだ。」
そう言った庄司の顔を,私は見返すことができなかった。



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