【桜花〜Act.8 萌し】

? 2011-03-21投稿
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暫くして,ヒタヒタと足音が戻って来た。
庄司が寝室から掛け物を持って来たようだ。
「んしょっと…」
庄司の声が漏れる。
私は寝呆け眼で庄司の影を追った。
「それっ」
いきなり庄司が大雑把にタオルケットを投げ掛けた。
「ん!」
私は顎で裾をキャッチして体を埋めた。
そのまま庄司の足音が遠退くのを待ったが,庄司の気配が消えたように静かになった。
…ギシ…
私の足元がズンと沈んで背後に人肌の温もりを感じた。
庄司は私を後ろから抱き締めるようにしてソファーに入って来た。私の背中から庄司の腕が伸び,内側からタオルケットがしっかりと掛け直される。
庄司はそのまま私をしっかりと包み込むように抱きかかえ,寝息をたて始めた。
私は次なる展開を期待していたが,庄司はそのまま起きなかった。
私は結局,朝まで庄司の寝息が途切れる瞬間を待ち続けて眠らなかった。
時計は朝7時を指していた。
「うー…ん」
カーテンの隙間から差し込んだ陽の光で,庄司が眩しそうに唸った。
「よく寝るな」
庄司は呟いた。
私が目を瞑ったままひと晩中に起きていたとは思うまい。
(馬鹿な男)
心の中で,小馬鹿にした気分だった。
(今時何も"しない"なんて有り得ない)
(おっさんにしとみたらラッキーじゃね)
(私もこの年でこの扱いだと凹むわ)
寝顔からは伺い知れないほど卑劣な感情が心の中で渦巻いていた。
その時ポンと何か私の髪に触れた。
耳元でフフっと庄司の微笑む声が聞こえ,庄司の掌が私の髪を撫でているのがわかった。
背後の庄司に気付かれないように,私は静かに目を開いた。
「…」
肩の力がスッと抜けていくのがわかった。
−オマエ"ハ"ナニガデキル?−
私の脳裏で聞こえていた卑屈な声は,これまでにない淡い期待を抱かせた。
撫でる手を休めることなく,キュッと首を締めるように強張った私の肩が,次第に緩んでいくのを,庄司は静かに見つめていた。

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