人は傷つくのを恐れるのに、なぜ、報われない恋をするのでしょう…
「真納粂さん」
珍しいミヨジだから、この広い高校でも、すぐに覚えてもらえる。
自分は、このミヨジがコンプレックスなのに…
真納粂 里香(まなくめ りか)
この春、高校に入学した。
「真納粂さん!理科のレポートまだ、出してないよね?」
「ぁっ、菊池先生…」
理科の菊池 恭先生(39)
私の恋の相手…
「出せます…」
「ハハッッ出せますって…!」
きゅっと片目を閉じて笑う。その仕草がむしょうに可愛い。
「ちゃんと出さないと駄目だよ」
ポンッッ 彼は私の頭の上に軽く手を乗せた。
「はぃ……」
相手が相手だけにこの恋は親友にも言い出せなかった。
「じゃぁね。」
「……」
菊池先生は奥さんもいて、私と同じ歳位な、子供もいるらしい。
「先生っ。」
「なに?」
「奥さんをどれ位愛してますか?」
「奥さんを…?」
「はい」
変なこと聞く。でも、それはあなたが好きだからだよ━━。どうか気づいて…。
「世界で、1番愛してる。」
涙が溢れそうになった。
私もあと何十年か前に生まれれば…あなたの『世界で1番愛してる人』になれたかもしれない。
「真納粂さんにも、きっとそーゆぅ相手ができるハズだから…。」
菊池先生は、小指を見せながら言った。
「くさいこと言うけど、赤い糸は、誰でもあるんだ。絡み合ってる糸をほぐしていきながら、辿りついた先が運命の人にだから…」
先生はきっと私の気持ちを知ってるのだろう
私は、とびっきりの笑顔で、「ありがとうございました」と言った。
何十年後かに、私の隣にいる人が、菊池先生より素敵であると確信した。
そして彼は、私の、過去の恋の中のひとつになるのだろう
彼をどんなに愛していても叶わない恋はある。
どんなに悲しくても
それでも明日は来る。