俺は、差し出された服を見て、嫌な予感がした。(たぶん…当たってる)
「君、名前は…?」
「村上秦です。」
「いくつ?」
「26…。」
「えっ…。意外といってるんだ…。20歳くらいかと思った」
その人は、ややひきつっていた。
そう、俺は、モデルにさせられるようだ。
「完璧!!」
スタイリストの人は、自分の仕上げっぷりに満足していたようだが、俺は、七五三のようで笑ってしまった。
「(トントン)入るわよ。出来た?」
「どう?完璧でしょ?」
スタイリストとプロデューサーは、ハイタッチをすると俺をスタジオへ連れていった。
そこは…。
異世界だった。
俺の緊張が一気に高まり、それからしばらくあまり覚えてないくらいドタバタと事が進んだ。
「お疲れさま」
そんな声がこだましはじめると俺は、ようやく自分を取り戻した。
(あっ時間…。)
時計を見るとまだ45分しか経っていなかった。
バイト服に着替えると
「失礼します。」
女性が入ってきた。
「これ、バイト代とうちのプロダクションの名刺…。」
振り向きながら、俺は、返事をした。
「あっ!」
そこには、朝の悪夢のデカ女がいた。
向こうも俺の表情を見て驚いていた。
「バイトってあんたなの?」
「あんたなんて言われたくないけど。」
あのデカ女に…。
1日に二度も…。
それもよりによって、モデルがうじゃうじゃいる中コイツに会うなんて…。
(今日は、仏滅か?赤口か?)
女は、ふて腐れたように話し出した。
「私、北條 織(しき)この名刺のプロダクションの社長秘書をしてます。社長が、後日またご連絡したいとの事でしたので、ご連絡先を教えて頂きたいのですが。」
朝とは別人のように冷静で物静かな様子で話してきた。
俺は、とりあえず、バイト代も入ったし、ピザの注文も取れるかもと思って、連絡先を教えた。
バイト先に戻るとたもっちゃんは、ひつこく合コンネタを求めてきた。
(最悪の1日が終わろうとしていた)
何だかとても疲れた俺は、滅多に寄らないカフェに入った。
カプチーノと灰皿をもらい席を探しているとそこには、あのデカ女…。
いや、北條織がいた。
「どうも…。」
「どうぞ」
俺は、黙って カプチーノを呑みながら煙草に火を付けると…。
そこから、無言の時間が流れた。
(厄年でもないのに…。)と思いながら今日1日濃かったなぁと笑ってしまった。