翼「…そっか。…やっぱ人間なんて満足することなんかないんやな」
しばらくして翼が笑いまじりに言った
慶「でも、満足できないからこそ、人間は明日は明日はって期待して生きていけるんじゃないかな」
慶太郎が相変わらず穏やかに笑って言った
翼「…」
慶「昔、達兄に言われたんです。なくなったものは仕方ないと受け入れられる人間になれって。…でも、達兄が死んで、その現実をそのままを受け入れることだけじゃなくて自分は悲しいんだって、そんな自分自身を受け入れる強さも必要なんじゃないかなって…」
翼「…」
慶「…翼君、いいんですよ。後悔も弱音も迷いも、後ろ向いてもいいんです。でも、そうしたらまた前を向いて下さい。なくなったり、持ってなかったり、出来ないことだけじゃなくて、自分が持ってるもの、今あるもの、できることやれること、それも数えて下さい。必要な物はいつでも自分が持っていないものだとは限らないと思います。もしかしたら、元々持っているなかにあるかもしれない」
そう言って慶太郎はまた微笑み、翼も“ありがとう”と言って笑いかえした