一話 「夏、蠢く。」
アブラゼミの大合唱が風情を感じさせるとともにシンヤを苛つかせる。
例年より暑い夏。
異常気象だのテレビでは騒いでいるが毎年耳にするセリフだ。
シンヤを苛つかせているのはセミと猛暑だけでなかった。
「待ち合わせって・・・なんだよ」
ケータイを見ると時刻は1時16分を示していた。
寂れた公園のベンチに座るシンヤの視界には無邪気に遊ぶ小学生たちがうつる。
「ごめんっ!待った?」
不意に声をかけられビクッとするが、すぐに平静を保つ。
「別に・・・」
声をかけたのは若い女性だった。
14歳のシンヤより身長は少し高く、黒いロングヘアーが大人の雰囲気を醸し出している。
「んじゃ、車停めてるからついてきて」
黒いワゴン車に乗せられ、シンヤは思っていたことを口にする。
「一体どこに行くんすか」
「ひ・み・つ、ま、その内分かるわよ」
「なんで俺なんすか」
「選ばれたのよ。国に。親にはちゃんと話してあるし安心しなさい・・・あ、私の名前は林サヤ。あなたは・・・藤森シンヤ君でよかったわね?」
「はい・・・」
エンジンがうねり、車のエアコンが起動し、生ぬるい風の後涼しい冷気が車内を冷ます。
発進したワゴン車は飛ばし気味に真昼の太陽に照らされる街を疾走する。
ふと、突然車内に無線音が入る。
「こちら国連防衛機関日本支部。第三カメラがメガインセクトを確認。防衛部隊は至急現場へ直行せよ」
サヤは舌打ちをした。
「予想よりも早いじゃない!シンヤ君、シートベルトしっかりね!」
事態が把握できないまま言われた通りに動く。
ワゴン車はスピードを上げ山の方へ向かった。
山の中腹で車は止まった。
辺りには車だけでなく戦車も見える。
そしてその砲身の先には巨大なセミがいた。