「あ、いえなんでもありません。ごめんなさい」
あまりの偶然に、えり子は動揺したが、その場は何とか取り繕った。
(びっくりした〜。この人に偶然会うなんて…。でも、この人も、美和をここで見たら驚くんだろうなぁ)
そう思いながら、えり子は席についた。
「びっくりしたよ〜偶然会っちゃった」
「え?誰に?」
「ほら、さっき美和の路上ライブを、ずっと聞き入ってた人がいるって言ったでしょ。その人が」
「本当に?どの人なの?」
「ほら、奥で話し込んでる3人組の人達いるじゃない。1人だけ眼鏡かけてない人よ」
「へぇ〜」
その時、義則のそばを、美和が通り過ぎた。
「ほら、美和の方に視線送ってるでしょ?あの人」
「へぇ〜、案外普通っぽい人だね。あの人が…」
由美は、義則を見ながら、(この人が…美和のことを、『心から笑って、心から歌えてないようなって…』でも、そうかもしれない…美和は確かに歌もうまかった。でも、表情はいつも曇ってたし、私にもそう思えたんだよな)
それでも、プロを目指していた美和だが、路上ライブでもなかなか人が集まらなかった。
美和は、昔からあまり笑顔を見せる方ではなかった。
このレストランのバイトもかろうじて、笑みを見せていたのだが…
そんな美和のライブを聞き入ってた人…
えり子の言葉に、由美は、いつのまにか義則達を見ていた。
「気になるんだ…由美も」
「え?あっうん…。聞き入ってることなんて、別にあの人じゃなくてもあるよね…だけど何でだろう
なんか、話してみたい気になるんだよね
うまく言えないけど、なんか何でも話せそうな人っているよね?あの人達が、本当はどんな人かわからないけど、なんか…あの人達だったら、私の心のなかのもやもやが話せそうだなって…おかしいよね?私…」
「な〜んだ。由美もそう思えたんだ」
「え?」
「私もだよ。決めつけてるけどね(笑)
「えり子も?」
「うん!ここは、逆ナンてことで話しかけてみる?」
「え?あうん…」
由美は、えり子の積極さに驚いたが、逆に感謝していた。
「美和に事情を伝えて、相席させてもらお!もしかしたら警戒されるかもしれないけどさ!怪しまれるのも覚悟の上だけどさ」
「うん!」
だが、このえり子の行動は、いずれ仲間としてやっていくきっかけとなった。