席につくと、ノックさんが自販機で買ったコーヒーを僕と伊島さんに配った。
「ありがとうございます。」「さて、どこから話そうか。そうだな。まずはじめに今からする話で重要なことをいくつか言っておこう。」そう言うと、伊島さんはコーヒーのフタを開け、一口飲んだ。
そして、一息ついてから、再び口を開いた。
「君が狙われた理由。それには春くん、君の家族、この前起こった事件、そして君自身に関わりがある。」
「伊島さん、どうしてあの事件や僕の家族のことを?」
「私は君の両親とは、古い友人なんだ。そしてあの事件のことは、君も知っておいた方がいい。あの事件は、ニュースなどでは一切公開されていない。」
「な、どういうことですか!?事件って、僕の家で起きた事件でしょう!?あれだけの事件がどうして!?」
僕は気が動転した。
助けられなかった。
そんな自分も許せなかった。でも、なによりも、この事件の犯人は許せるわけがない。それでも、警察が動いてくれる、そう考えていたからまだ耐えられた。なのにニュースになってないってことは警察は動いてないってことだ。
「落ち着くんだ!春くん!」「春!!しっかり聞け!!」
「落ち着けるわけないだろ!!身内が殺されて、なにも動いてない!ふざけんな!!伊島さん!どういうことだよ!答えろ!!」
ゴッ!
後ろに倒れ込んだ。
殴られた?
ノックさん?
「春、お前の気持ちがわかるとは言わねぇよ。だけどな、伊島さんにあたんな。」
「いいんだよ。ノックくん。春くんの中は今、混沌としてるんだ。君でもきっとこんな話を聞かされたらこたえる。」
少し暗い表情を浮かべたあと、伊島さんは続きを話し出した。
「春くん。辛いかもしれないが、これが事実だ。そして、あの事件について知る人間はほとんどいない。近隣の人でさえね。」
「そんなの、ありえないですよ。いくらニュースになってなくても近所の異変にくらい気づく人はいるはずです!!」
声を荒げてしまう。
ふいに、ノックさんの口が開いた。
「誰も気づけないんだよ。」