「魔法があるのはわかった。それで俺を待ってた理由は?」
理由はなんとくわかっていた。
この男はおそらく自分に魔法を教えに来たのだろう。
「魔法は誰でも使えるものなんだが、向き不向きがあってね。俺のように魔法適合率が低いとこの程度ぐらいの魔法しか使えない。実は戒くん、君の魔法適合率は極めて高いのさ。」
−魔法適合率が高い?自分が?−
その言葉は戒が特別な存在であることを意味していた。
戒にはその言葉がうれしかった。
「それで君自身魔法を使ってもらってデータをとらせてほしい。それでさらに研究が進む。」
「それはわかったけど、魔法はどうやって使えるようになるんだ。」
「お、引き受けてくれるのかい。」
男は戒の反応に嬉しそうだった。
「引き受けるか、どうか魔法の使い方を聞いてからだ。で、どうすればいい?」
「魔法の使い方を聞いてから返事かぁ。最近の子はちゃっかりしてるな。」
男は軽いため息つきながらそう答えた。
「まあ、いいさ。魔法を使えるようになるにはこの注射を打てばいい。簡単だろ?」
「えっ?」
これは少し予想外であった。
なんらかな儀式的なものを行うか、精神統一的なものを行うかだと思っていたが、まさか注射とは。
さすがに注射となると危険を伴うような気がして打つのをためらってしまう。
「まあ、普通はためらうよね。これはナノマシンによって人体から魔法を解放する。ちゃんと動物実験もしたし、人体にも悪い影響が出ないように実験もしてるよ。俺がその実験第一号さ。」
そうはいっても、この男を丸々信用して注射を打つのは怖い。
「う〜ん、いやなら無理をする必要はないが。君ならわかると思うが、普通という巨大な渦から抜け出すにはそれ相応の覚悟と決断が必要さ。本当に普通な人にはそのチャンスすらめぐってこない。君にはそのチャンスがあるんだ。そこをもってよく考えてほしい。」
自分にしかこのチャンスは来ない。
ここを逃せばただみんなと同じような普通の人生を歩んでいくだろう。
戒は迷った。
戒はしばらく考え込んだ末答えを出した。
「注射を打ってくれ。その話を受けよう。」