今思えば、それを言った瞬間、2人の表情が曇ったような…。
「あ…あとね、これ、パパとママからカズヒロへ手紙。」
「…手紙?」
その手紙の題名は、『遺書』
まだ遺書の意味が分からなかった俺は、
「ありがとう。開けていい?」
すると、2人は首を横に振った。
「君が大人になったら。」
「…分かった…。」
俺の小さな手には、遺書の重みなんて、分からなかったんだ。
「じゃあ、お母さんとお父さん、トイレ行ってくるわね。カズヒロそこで待っててね。」
これが…最後の言葉。
「うん!」
俺が自然と笑えた最後の…思い出。
30分…1時間…。
「ママ〜?パパ〜?」
と探し続けた。
しかし、トイレにはいなかった。
「おうちに帰ったのかな…。」
俺の心を、急に寂しさが襲ってきた。戻るお金なんて…ないのに。
日が暮れて、夜になった。人通りが少なくなった浅草寺。俺は道端で一人、しゃがみこんでいた。
凍てつく冬の寒さに、俺は必死で耐えた。
すると、1人の警備員がやってきた。
まだ20代っぽい顔をしている。
「…どうしたのかな?パパとママは?」
「トイレに行くって言って、まだ帰ってきてないんです…。」
「いつから…ここで待っているのかな?」
「ずっと。」
「ずっと?」
すると警備員は、俺が持っている『遺書』に気付いたんだ。