(追い掛けてこいよ、ジーナ!)
ラドラスは高鳴る気持ちを堪え切れず、心の中で叫んだ。
彼女はきっと自分を止めようとするだろう。だが自分は、それを全力で拒否してやるのだ。
己の背中を追う、食い入るような黒い一対の瞳を思うだけで、ラドラスは走り続けることができた。
舞子は自室にこもっていた。
薄暗い闇の中、床に敷いてある絨毯の上でうずくまり、ソファにもたれ掛かったまま、ぶつぶつと自分にしかわからない呪文を呟いている。
(……明後日か、明々後日)
それが、覇王が舞子に報告した、記念すべきトンネル開通の予定日である。
覇王はできるだけ多くの想像物を――兵士を作り出すよう、舞子に要請した。
そして舞子は、偵察隊として「白の乙女」たちを作り出した。
華やかな様相をした彼女たちは、およそ五十人ほどもおり、生み出すのにそれなりに苦労した。しかし彼女達は未だに、美香や耕太はおろか、あちこちで目撃情報を増やしつつあるミルバさえも捕まえられていない。そのことに対し、覇王は多少なりとも苛立ちを隠せない様子だったが、もちろん舞子に当たるということはなかった。
そして夜羽部隊の再生については、諦めざるをえなかった。
覇王が言った通り、一度生み出した存在をそっくりそのまま作り直すことは、いくら想像者であっても不可能だったのだ。よってアリアや、他の数人生き残った夜羽部隊の隊員たちは今、舞子直属の兵としてこの部屋の入り口を守っている。
舞子は少しでも計画の実現性を高めるため、また、それなりに覇王の苛立ちを感じ取っているために、新たな兵を生み出すことに躍起になっていた。
しかし。
「……うっ、どうして……!?」
何も、浮かばない。
いつもなら洪水のように溢れ出てくるイメージや空想が、まったく像を結ばない。一瞬生まれかけたものも、すぐにふわふわと曖昧な幻想に変わってしまい、こちら側に現れる前に消えてしまう。
舞子は頭を抱えたまま、小さく小さくうずくまった。長い黒髪がさらさらと頬をこする。
知らず知らずの内に、身体が震え出していた。
(わたしは、何を今更怖がっているの……?)
舞子は泣きそうになりながら、自分自身に問い掛ける。
わからなかった。自分が何を恐れ、何を躊躇っているのか。