「これは何?」
「パパとママから渡されたんだ…。『遺書』って言うんだって。お手紙じゃないの?」
ふと顔を上げたら、警備員の顔が真っ青になっていた。
「遺書…本当か君。」
「うん。お兄さん、怖い顔。」
警備員は、その返答には答えず、唇を噛み締めて、
「とりあえず、俺の会社へ。」
「…。」
「一緒に…来てくれるか?」
俺はうなずいた。
「お名前は?」
「松田…カズヒロ…。」
その時の名字は「松田」…。
今となっては、封印したい名字だ。
「俺は斎藤アキラ。まだまだ若いといわれる25歳。警備員をしているんだ。」
俺は、まだ分からなかった。
この人が、新しい父親になるなんて。
東京の小さな警備会社。
「おぅ、アキラ。どうした?」
上司の大江シンイチ。皆からの人望も厚い人だ。
「あの…浅草寺に子供が…。」
俺は、震えながらシンイチをみた。
「お名前は?」
「か…か…。」
俺がたじろいでいると、アキラが、
「松田カズヒロくんです。」
と助けてくれた。
「いくつかな?」
シンイチさんが、俺のもとに駆け寄ってきた。
「7さい…。」
「あの…この子どうしましょう?」
アキラは、俺を撫でながら言った。
「どうしてそんな事言うんだ。親に返せばいいじゃないか。」
アキラは、俯いて答えた。「実は、これ…。」
アキラは、シンイチに俺が持っている『遺書』を見せた。