03.
「なあ。もー1回弾いてよ」
「う、うん」
言われた通りに、私はさっきの曲を弾き始めた。
その人は私の横に立って、私がピアノを弾くのをじっと見ている。
「凄いよなあ。両手で違う動きしてる」
「凄い、かな?」
「凄いだろ! 俺できねえし。ちょっとやらせて」
そう言うと、その人は私の隣に座って鍵盤に両手を乗せた。
両手で弾こうとしてるみたいだけど、右手の動きに左手がついていってなくてぎこちない。
私はそれを見て、小さく吹き出してしまった。
するとその人は私の方に顔を向けた。
やばい、怒られる……
そう思って、私は身を縮めた。
「何笑ってんだよー」
その人は笑いながら言った。
「あ、ごめんなさい」
「よし、許す!」
縮めた体の力が一気に抜ける。
見た目と違って全然怖くないんだ、この人。
見た目で判断しちゃいけないって、まさにこういうことなんだなあ。
「なあ。名前なんていうの?」
「華原麻子」
「俺は友坂隆司(リュウジ)」
「友坂、くん……」
「名字じゃなくて、リュウって呼んで。みんなからそー呼ばれてんだ。俺マコって呼ぶし」
「うん。分かった」
男子と話すことなんてなかったから、ちょっと緊張する。
いきなり名前で呼ぶなんてできないよ……
「ご、ごめん。私帰るね」
「そっか。あ、邪魔しちゃってごめんな」
「ううん、そんなことないよ! 話しかけてくれて嬉しかった。私、友達いないから……」
何言ってんだろ、私。
友達いないとか引かれるに決まってる。私の馬鹿!
「じゃ、俺が友達第1号になってやるよ!」
「え?」
予想外の言葉が返ってきて私は驚いた顔でリュウを見ると、リュウはニカッと笑って右手を差し出した。
「仲良くしよーな」
「う、うん! よろしく!」
嬉しくて嬉しくて、私はリュウの手を握って握手をした。
後から考えみると、恥ずかしかった。
だって初めて男の人の手を握ったから。