ま、まさか…?
俺が、デカ女に恋をするわけは…な・い。
完全に動揺している。
しかし、なぜ?
あんな表現が出来るのだろうか?
俺は、この仕事を引き受けた事に初めてプレッシャーを感じた。
「秦くん、どう?」
「あっはぁ〜…」
「自分に暗示をかけるの。服を見てストーリーを創って、その主人公になるの…わかる?」
「何となく…?」
「じゃあ、早速やってみましょ!」
俺は、スタイリストに連れられて衣装を着けた。
初めて着る。
タキシード!
デカ女が俺にイメージを伝えた。
「まず1つめは、ある有名な方にパーティーに誘われて…一目惚れしあった女と男。2つめは、恋人同士の別れ。イメージできた?」
なるほど…。関心する。
俺とデカ女は、ジロさんのカメラの前に立った。
「ジロさん、お願い」
(いくわょ)デカ女が囁いた。
ジロさんのシャッター音が長い間響いていた。
「OK!!」
ジロさんは、何だかずいぶん興奮していた。
「きゃぁ〜っ!」
スタイリストが悲鳴のように声をあげパソコンの画面にかじりついていた。
オレ?とデカ女…。
とても 綺麗な写真だった。
「秦くん、やっぱり…凄い人材ね!あなたは。」
いや…。
俺じゃなく、やはりRIONAは、未だ一流のモデルだと思いしらされた。
しかしながら、俺も俺じゃなくなって見えた。
少しだけ前向きにもなれた。
デカ女は、その後、プロダクションに戻りいつもの秘書に戻っていた。
雑誌の表紙という、鮮烈なデビューをしたものだから、何だか仕事は舞い込んできていた。
それでも、一流には程遠かった。
ある日、事務所に行くと社長とジロさんとデカ女が真剣な表情で話をしていた。
窓越しで会話は、聴こえないが…。
偉く重い雰囲気だった。
俺は、別の打ち合わせをしていたが、社長室が気になって打ち合わせに身が入らなかった。
デカ女が、暗く困った表情をしていた。
ジロさんが社長室から出てきた。
「よっ!秦くんだっけ?がんばってるか!」
「はい。何とか」
ジロさんは、挨拶もそこそこに帰りながらデカ女の肩をたたいて出ていった。
社長室では、社長が考えこんでいた。
何があったのだろうか?
社長の机の上には、白い封筒らしいものが見えた。
何だ?辞表?ヘッドハンティング??それとも…?何なんだよ!?
俺は、封筒が気になってしかたなかった。
デカ女がいなくなるのか…?
胸が突き刺すように痛い。