世界中の誰よりも惨めで、情けない。
そんな目もあてられない顔しながら私は歩道を早足で進む。
周りの景色なんて覚えてない。フラれた私はもう抜け殻だった。
たかが失恋で死にはしないけど、恋した時よりも動悸が異様に激しい。
頭の血液が沸騰しそうだ。でも歩き続けなれば。
サプライズで訪ねたら、サプライズで反撃された。笑える。こんなドラマみたいな事があるんだと思った。いや、あるからドラマにもなるのか…?もうそんな事、どうでもいい。
綺麗な人。強張った彼の表情。何もかもが恐ろしくて、私は負け犬みたいに走って逃げた。
彼が後ろから何か言っていた気もしたけど、よく分からない。
嗚咽を必死にこらえていたら、酸欠でめまいがする。
もうかなり歩いたみたいだ。自販機でブラックを買い少し口に含む。唇についた涙と混ざって、意外にまろやかな味がした。鼻からかすかにコーヒーの香りが抜けた。
一気に全てがなくなった気分だ。もう何もしたくない。早く家に帰ろう。
もともと遠距離恋愛だから、また明日から普段通りに生活すればいいだろう。
すがりつきたいくらい大切な人だったけど、気持ちが離れたなら私だって潔く身を引くつもりだ。
だいたいあいつもあいつだ。他に好きな人ができたなら、その時に言えばいいのだ。そりゃ傷付くけど、駄々をこねるような人種じゃない。私を分かっていないな。
今頃彼は無数の不安と憶測で、気の毒なくらい混乱しているだろう。
電話がないのに安心しつつ、かけたい衝動を抑えているかもしれない。
残念ながら、私は彼の番号は暗記していない。潔い私は、歩きながら徹底的に携帯から彼の記録を消し去っていた。
そういう訳で、私の新たな歩みがかなり強引に始まった。