卒業式
卒業していく憧れの佐藤先輩に
「好きです」
の一言が言えず、告白は失敗に終わった…。
どうして言えなかったの?
私は誰もいない桜の木の下で泣いていた。
あれから一ヶ月
もともと人と話すのが苦手で友達の少ないかった私は、新しいクラスに友達が一人もいず昼休みに一人、図書室で本を読んでいた。
私、春川ゆい。
告白に失敗し彼氏が一人もできないまま、今年の春中学三年生になりました。
趣味は読書で、
今図書室で読んでいる本は、主人公の悪魔と人間の禁断の恋愛ストーリー…。
この本の
主人公が好きだった。
主人公は性格が悪くて、だから悪魔の自分が嫌いで、でも人間の彼女にはすごくやさしいところ。
好きな子には“特別”みたいな感じがいい…。
ふと、予鈴のチャイムがもうすぐ鳴ることに気付き、その本をしまおうとした。
そのとき…
「おい、その本借りたいんだけど」
後ろから、女の子の声がした。
振り向いたら、女の子じゃなくて自分より背の小さい男の子だった。
…こいつ嫌い。
中村かずと
中学から一、二年とも同じクラスだった。
私から見て、中村は性格の悪いイメージどおりの悪魔だ。
二年の時、シャーペン貸したら壊された。
そのまま誤らずに、とんがった八重歯を片方見せて、にニヤリと笑いやがった。凄く悪魔に見えたし。
だけど、笑わなければ天使みたいなかわいい顔なので女子からモテる。ちびなのに…。
「さっきからずっといたのに知らなかったのかよ、春川って馬鹿だよな」
私を指差して、ケラケラと笑ってきた。
ムカついたので、しまおうとしていた本を中村のお腹にぶつげた。
「いてっ、何すんだよブス」
…ブスって言われたのたぶん初めて。
「本を渡してあげたの、悪魔のくせに、受けとめられないのぉ?」
「悪魔じゃねぇし」
「悪魔でしょ、性格悪いし」「性格悪いのはお前の前だけ」
確かに中村は男子からも女子からも性格がいいと評判がいい
…ん?私の前だけってもしかして私は“特別”!?
なわけないか。特別な人には優しくするよね。
あれが特別ならば、私も中村は特別だ。
人と話すのが苦手な私でも、中村とはたくさん話せる
…悪い意味だけど。
キーンコーン…カーンコーン…
予鈴のチャイムが鳴った。近くにいた中村がいつのまにか消えていた…。
三年の教室は、一、二年の教室より図書室から近いので、すぐついた。
………あ
教室に中村がいた
…てことは、三年でもまた同じクラスだったんだ。
自己紹介があったけど、ぼーっとしていて聞いてなかったから気付かなかった。
最悪…ではない。
一年の頃は中村のこと好きだったからかな…。
あの頃の私にも優しくしてくれたし、笑顔が天使みたいだった。
シャーペンを壊された二年のときかも、好きじゃなくなったのは…それから好きな人が佐藤先輩に変わった。
中村は私とまた同じクラスだって、気付いてるだろうな。自己紹介ちゃんと聞いてたと思うし。
私は席についた。
いままでずっと中村とは席が近かったが、今回は遠い。
そのほうがいい
中村に“運命”を感じてしまうから。
「起立、礼」
五限目の授業が始まった。嫌いな数学だった。だけど、中村のことばかり考えていたら時間はすぐにたち、授業は終わっていた。
その日の夜、友達からメールがきた。
メールの内容は…、佐藤先輩に彼女ができたこと。
私は中村どころじゃなくなった。かなりショックだった…。
次の日の朝、私は暗い気持ちで自転車投稿をしていた。まだ佐藤先輩のことが忘れられない。
「おっす。春川」
後ろから女の子の…ちがう、男の子の声だ。
振り向くと、やっぱり中村だった。なんにも悩みがなさそうな顔をしいてちょっと憎い。
「どうした?顔がこわいぞ」中村さん、今はそっとしておいてくれ。
「顔がこわいのはいつものこと。先に行っていいよ」
道をあけたが、中村は先に行かなかった。
「…恋の悩みか?」
中村が真剣な顔になってる、初めて見たかも。…てかなんでわかったの?
「なんでそう思うの?」
「悪魔はなんでもわかるのさ…なんてな。お前卒業式の日、桜の木の下で一人告白の練習しながら泣いてたのみたんだ」
……見られてたんだ!!
あまりの恥ずかしさに顔が熱くなりうつむいた。
「あっ、あれは〜…。誰にも言ってないよね!?」
「言うわけねーじゃん」
…よかった
でも、まだ顔はあついままでうつむいている。
中村が私に近づいた。
「誰にも言わねーからな。恋に悩むなよ、俺がついてる」
え?
“俺がついてる”って?
さらに顔があつくなるけど、うつむくのをやめて中村の顔を見た。
中村は笑顔だった。
一年の頃から忘れられない久しぶりの眩しい
“天使”
のような笑顔…。
ドキン…
私はまた中村に恋をした。
学校に着いた。
中村は自転車を置き、かごからかばんを取り出すと
「まずシャーペン弁償からスタートな」
と言い、走って校舎に入って行った。
仲直りからスタート
ってことよね。
私も明るい気持ちで校舎に入って行き、教室に向かった。