スタジオに向かう途中、卓人は、マネージャーの長村 愛に話しかけた。
「長村さん、もう慣れました?」
「え?…ああはい」
「そう…良かった。 大変ですよね。いきなり付いた担当が、コンビを解散した俺で…」
長村 愛は、前職を10年やった後、この業界に入ってきていた。
「いえ…私的には、担当させてもらえるだけでも嬉しいですよ。転職する時、いろいろ受けて、合格をいただいたし、こうして、林さんのマネージャーを担当出来るんですから。」
「そうっすか。こんな32のどうしようもないやつにすいません」
「…そんな。敬語とか使わないでください。私は、林さんより年上ですけど、業界的には、ひよっこですよ。私の使命は、林さんを本馬さんと同じくらい看板タレントにすることですから」
「ありがとうございます。…でも、これで良かったんですか?この仕事で…」
「はい」
愛は元気よく答えた
「あの…聞いていいですか?」
「え?何を?」
「あ…答えたくなければいいですけど、前の仕事を辞めて…後悔とかなかったですか?…それに自分の幸せとか考えてました?」
「それは…」
卓人は、愛の曇った表情を見て後悔した
「すいません!失礼なこと聞いて。」
「あ…いえいいですよ。…私、前の仕事は、スーパーマーケットの本社で、広報の仕事をしてたんですよ。…本当は、現場に立って、仕事をしたかったんですよ。今の社会だったら、男女関係なく、部門も関係なく、自分で売場を作り上げたかったから…でも、入社して研修して、配属されて、ずっとこの仕事だった。…もちろん…もちろん広報の仕事も大切な仕事ですよ。…でも、私はやってみたかったんですよ。自分で作り上げたものを、お客様に見て感じとって、お買い上げしてもらえることを…大学時代にアルバイトしてたスーパーで、そう思ったんですよ。…そう思わせてくれた人がいるんです」
「そう…」
「でも…希望が見えなくて、会社を辞めて、この事務所に就職して…何か見つけてみようって…あ!すみません。こんなに自分のこと話してしまって…」
「いや、全然。話してくれてありがとう。長村さんのこと、少しは知っておきたかったから…」
「そんな…」
愛は恐縮した。