戒は家族の誰にも会わないように2階にある自分の部屋に戻ろうとした。
しかし、階段に足をかけたところで母親に呼び止められた。
「戒、あんたさぁ、また土手でゴロゴロしてたの?明(めい)は夏休みでも生徒会の仕事だって。今年受験の戒お兄さんはずいぶん暇そうでうらやましいわ。」
戒は何も言わず階段を上り自分の部屋に戻っていった。
小野寺家は父親である誠(まこと)、母親の藍(あい)、長男の戒(かい)、そして末っ子、妹の明(めい)の4人家族である。
この末っ子の明は大変優秀で戒のありきたりな日常とは違った道を歩んでいた。
戒よりも一つ下である明は小学生の低学年まで普通であったが、高学年からその持ち前の優秀さを発揮し、地元の有名私立中学をトップで合格、高校生である現在もトップのまま。最近では生徒会の会長になったらしく、この辺りでは美人生徒会長として評判である。
そんな妹を持つ戒はことあるごとに妹と比べられ、うんざりしていた。
また両親も妹に比べて何もパッとしたものがない戒には何も期待していなかった。
気が付けばもう夜になっていた。
どうやら少し寝ていたようである。
戒は下から夕飯ができたという母親の呼ぶ声が聞こえたので食卓の席についた。
食卓には妹が両親と談笑しながら席についていた。
戒が席につくと談笑は止まり皆もくもくと食事をとりはじめた。
そんな中…
「戒兄(かいにぃ)。また土手でゴロゴロしてたんだってぇ?戒兄やれば出来るんだし、そろそろ勉強しよ。」
明は両親とは違い、戒に期待し、励ましてくれる。
しかし、戒はいつもその励ましを素直に受けることは出来なかった。
「うるせぇよ。」
そう呟き、戒は部屋に帰っていった。
「俺にも何かあれば…」
ありきたりな自分にも何か人に誇れるものがあれば、普通以上の何かがあれば、両親も自分をきっと認めてくれる。
妹の優しさも素直に受け入れられる。
戒は明日もまたあの土手に行くことを決めた。