「どうだった? 試験は?」
いつもの喫茶店に入ってきた友人の高梨を席に座らせると、俺は開口一番にそう言った。
「いや、出来る限りの事はしたけど、自信ないし不安でさ」
と、高梨は首を振る。
「元気出せよ。まあ、気持ちは分かるけどな……。俺も、試験終わった後は、ずっと不安だったし」
テーブルのコーヒーを一口飲む。そして、
「まあ、結局は落ちたわけだけどな」
と付け加えると、俺はもう一口飲んで笑ってみせた。
大きなため息をつく高梨。
どうやらイラついたようで、少し口調を荒げた。
「俺は結婚もしてるし、家族養ってかなきゃいけないし、大袈裟かもしんないけど、この試験に人生かかってんだよ」
「それは未だに彼女すらいない、俺への皮肉か?」
俺は笑って、またコーヒーを飲んだ。
それからしばらく他愛もない世間話をしていると、高梨が時間を気にし始め、そろそろ帰ると言い出した。
「まあ、とにかく、もう試験は終わったわけだし、あんまり深く考えんなよ。結果見るまで分かんないんだし」
別れ際、俺はそう言っておいた。心配だったのだ。
あれから数日が経ち、高梨は会社から採用試験の結果を受け取ったらしい。
そして、あの喫茶店でまた会うことになったのだ。
予定の時間より早く着いたので、席について待っていると、心ここにあらずと言った様子の高梨が現れた。
何だかふらついているように見える。大丈夫だろうか。
「こっちこっち」
と呼ぶと、少し間を置いてから、ハッとして彼は近づいてきた。
顔が青ざめている。
「おい、大丈夫か? どうだった? 結果」
そう訊くと、彼は無言で鞄から紙を取り出した。
受け取って読んでみると、俺は何も言えなくなってしまった。
――――――――――――――― 合格通知書
高梨 悟 様
貴方は、この度のリストラ採用試験に合格されました。
来る3月31日までに、荷物を片付けて下さいますよう、お願い申し上げます。