白の乙女と光の子供は、時間が静止したかのように、騒音の中で互いにじっと見つめ合った。
猫のような乙女が、うるさく鳴り続けるメロディーを、指揮者のように片手を握ることによって止める。
そしてなぜか、肩透かしを喰らったように残念そうな顔をした。
「意外ー。まっさかあたしたちが見つけちゃうとはね。面倒くさいし、無視しちゃおっか」
「冗談。あたしらが何のために舞子様によって想像されたか、忘れちゃいないわよね。……行くよ、レミ」
ソラは妖艶に笑うと、地面を蹴りつけ、勢いよく目標に向かって走り出した。白いスカートが風をはらんで膨らみ、日に焼けた健康的な足がかいま見える。
レミは楽しそうに一度大きく伸びをすると、軽やかな足さばきで、しかしソラとほぼ同速で突っ立っている二人に迫った。
二人はまったくと言っていいほど動かなかった。その表情にも、何ら感情の起伏は見られない。
(逃げることを諦めたのか?)
ソラは一瞬、眉を潜めたが、すぐに思考は別のことに移った。初めて捕獲対象と出会ったのだ。ここでへまをするわけにはいかない。
しかし、二人の目の前に辿り着き、催眠効果のある粉をばらまこうとスカートのポケットに手を入れた途端。
光の子供たちは、人間とは思えない速度で残像のみを残して左右に分かれた。
「っ!?」
驚きに目を見張るソラの背中を軽く押しのけ、レミが右手の通りに走り出した美香を追う。ソラもすぐに我に帰り、左手を走っていく耕太の背中を追った。
二人はバラバラになっても、さほど心配していなかった。心の中で仲間に応援を呼び掛けることで、すぐに他の乙女たちがこちらに向かい始めたのがわかったからだ。
(……ま、あたしが捕まえちゃうけどね!)
レミはペろりと唇を舐めると、すでに目前に迫っている美香の背中に向かって手を伸ばした。白の乙女たちの足は速い。夜羽部隊のそれとは比べものにならないが、通常の人間が出せる速度のかなり上を行くスピードで動くことができる。
白い指先が美香の肩に触れた瞬間。
「っ熱!」
火傷したような感覚に、レミは慌てて指を引っ込めた。
しかし指先を見ても、怪我などどこにもしていない。
そうしている内に、また少女の細い背中は街のさらなる奥へと遠ざかってしまう。