事件が起きたのは夏のひどく蒸し暑い夜だった。
強盗が神谷家を襲った。
生き残ったのは神谷葵だけ。
神谷の両親はナイフのようなもので心臓を貫かれていた。
奇妙なことに死体は赤い円の真ん中に積み重ねてあり、それが何を意味するのか不明であった。
神谷洸は切り落とされた右腕とおびただしい血痕が発見され、死体こそは見当たらなかったが、恐らく死んでいるだろうと推測される。
神谷葵はひどい怪我を負って意識を失っていたが、命に別状はなく唯一の生き残りとなった。
犯人の目撃者はおらず、唯一の生き残りである神谷葵は事件のショックでほとんどしゃべらなくなっていた。
警察は事件の現場がひどく荒らされていて何かものを奪っていった形跡があることからこの事件は強盗によるものだと断定した。
犯人は捕まらなかった。
神谷葵は親戚の家に引き取られることになったが、神谷葵自身がそれを強く拒み今も事件のあった家に一人で住んでいる。
しばらくの間はご飯、洗濯などの家事はうちの母親が手伝っていたが、彼女が中学に上がってからはそれも一人でやっていた。
葵は事件のショックで変わってしまった。
無理もない。
若干8歳の女の子が目の前で両親と最愛の兄を失ってしまったのだから。
葵が変わってしまってからも戒は葵を支えようとできるだけ一緒にいるようにした。
その関係すら打ち壊されて葵は一人になる。